認知症の薬は何を目的に使う?
コリンエステラーゼ阻害薬・NMDA受容体拮抗薬・抗アミロイドβ抗体薬の違いをわかりやすく解説
認知症の薬というと、「物忘れを治す薬」と思われることがあります。
しかし実際には、認知症の薬はすべて同じ目的で使われるわけではありません。
たとえば、やる気が出ない・何もしようとしないアパシーが目立つ場合、怒りっぽさ・興奮・妄想などの周辺症状が問題になる場合、そしてアルツハイマー病そのものの進行を抑えることを目的にする場合では、薬の考え方が変わります。
この記事では、認知症の薬を次の3つの視点で整理します。
| 薬のグループ | 代表的な薬 | 主に意識する症状・目的 |
|---|---|---|
| コリンエステラーゼ阻害薬 | ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン | アパシー、意欲低下、認知機能低下など |
| NMDA受容体拮抗薬 | メマンチン | 興奮、易怒性、妄想、異常行動などの周辺症状 |
| 抗アミロイドβ抗体薬 | レカネマブ | 早期アルツハイマー病の進行抑制 |
まず知っておきたい「中核症状」と「周辺症状」
認知症の症状は、大きく分けると中核症状と周辺症状に分けて考えるとわかりやすくなります。
中核症状とは、物忘れ、時間や場所がわからなくなる、段取りが立てにくくなる、といった認知機能そのものの障害です。
一方、周辺症状は、最近ではBPSDとも呼ばれます。たとえば、怒りっぽくなる、興奮する、妄想が出る、幻覚がある、不安が強い、眠れない、徘徊する、何もしたがらない、などの症状です。
ただし、周辺症状があるからすぐ薬、というわけではありません。周辺症状、つまりBPSDへの対応では、まず痛み、便秘、感染症、脱水、睡眠不足、薬の副作用、環境の変化などを確認し、環境調整やケアの工夫を行うことが基本です。薬は、そのうえで症状が続く場合や、本人・家族の負担が大きい場合に検討されます。BPSD対応のガイドラインでも、非薬物的介入を検討したうえで薬物療法を考えることが示されています。
1. ドネペジルなど:アパシーや意欲低下が目立つときに考える薬
ドネペジルは、アルツハイマー型認知症でよく使われる薬です。
一般的には「物忘れの進行をゆるやかにする薬」と説明されますが、実際の診療では、アパシーが目立つ方で使われることがあります。
アパシーとは、単なる怠けや性格の変化ではありません。
認知症に伴って、意欲や自発性が低下している状態です。
たとえば、次のような様子が見られることがあります。
| アパシーで見られる様子 |
|---|
| 以前好きだった趣味に関心を示さない |
| 声をかけないと動き出さない |
| 一日中ぼーっとしている |
| 会話が少なくなる |
| 食事や外出への関心が薄くなる |
| 本人はあまり困っている様子を見せない |
このような場合、ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬が、意欲低下やアパシーに対して有効なことがあります。BPSD対応のガイドラインでも、アパシーに対しては非薬物的介入が基本である一方、コリンエステラーゼ阻害薬が有効なことがあると記載されています。
ドネペジルは「元気を出す薬」ではない
ここで大切なのは、ドネペジルは気分を無理に上げる薬ではないということです。
アパシーに対して使う場合も、「急に元気になる薬」というより、活動性や反応性が少し改善するかどうかを見ていく薬です。
また、ドネペジルを含むコリンエステラーゼ阻害薬は、薬剤や症例によって効果にばらつきがあります。抑うつ、アパシー、不安、幻覚、妄想などに有効だった報告がある一方で、興奮や易刺激性を誘発・悪化させることがあるため、効果と副作用を見ながら調整する必要があります。
2. メマンチン:周辺症状が目立つときに使うことがある薬
メマンチンは、主に中等度から高度のアルツハイマー型認知症で使われる薬です。
ドネペジルなどとは作用の仕組みが異なり、NMDA受容体拮抗薬に分類されます。
臨床的には、メマンチンは次のような周辺症状が目立つ場合に意識されることがあります。
| メマンチンを考えることがある症状 |
|---|
| 怒りっぽい |
| イライラしやすい |
| 興奮しやすい |
| 介護への抵抗が強い |
| 異常行動が目立つ |
| 妄想がある |
| 落ち着きがない |
BPSD対応のガイドラインでは、メマンチンについて、興奮、易刺激性、異常行動、妄想などに有効であることがあり、使用を考慮してもよいとされています。
メマンチンは「鎮静剤」ではない
メマンチンは、眠らせる薬や強く抑える薬ではありません。
そのため、暴言や暴力、不穏をすぐに止める目的で使う薬というより、認知症の進行に伴って出てくる興奮性や易怒性、妄想、異常行動などを少し落ち着かせることを期待して使う薬です。
ただし、すべての周辺症状に効くわけではありません。
徘徊、睡眠障害、不安、抑うつ、幻覚などは、それぞれ原因や対応が異なります。痛み、便秘、環境変化、睡眠リズムの乱れ、薬の副作用などが背景にある場合は、それを整えないと改善しないこともあります。
また、メマンチンでは、めまい、ふらつき、転倒、頭痛、便秘、精神症状の変化などに注意が必要です。特に高齢の方では、飲み始めや増量時にふらつきが出ていないか確認することが大切です。
3. レカネマブ:症状を落ち着かせる薬ではなく、進行抑制を目的とする薬
レカネマブは、これまでの認知症薬とは考え方が異なります。
ドネペジルやメマンチンが、主に症状や生活上の困りごとを見ながら使われる薬であるのに対し、レカネマブは早期アルツハイマー病の進行抑制を目的とした点滴薬です。
レカネマブの効能・効果は、アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制です。通常は2週間に1回、点滴で投与します。また、使用にあたってはアミロイドPETや脳脊髄液検査などでアミロイドβ病理を確認する必要があり、無症状の人や中等度以降のアルツハイマー病による認知症の人には投与開始しないことが示されています。「進行を遅らせるなら良いことずくしじゃないか」そのように思うかもしれませんが、レカネマブにはメリットデメリットがあります。別記事でご紹介しますのでご参考にしてください。
レカネマブは「今ある症状をすぐ改善する薬」ではない
レカネマブは、アパシーを改善する薬でも、興奮や妄想などの周辺症状を落ち着かせる薬でもありません。
目的は、早期アルツハイマー病の進行をゆるやかにすることです。
臨床試験では、早期アルツハイマー病の患者さんを対象に、18か月時点でCDR-SBという評価指標の悪化をプラセボと比較して27.1%抑制したことが示されています。
ただし、レカネマブは病気を完全に止める薬、治す薬ではありません。添付文書上も、疾患の進行を完全に停止したり、治癒させたりするものではないと記載されています。
レカネマブは検査と副作用管理が重要
レカネマブでは、ARIAと呼ばれる脳のむくみや微小出血などの画像異常に注意が必要です。
そのため、投与前後にMRIなどの検査を行い、専門的に管理できる医療機関で治療する必要があります。
3つの薬を「目的」で整理するとわかりやすい
認知症の薬は、名前や分類だけで覚えるより、何を目的に使うのかで整理すると理解しやすくなります。
| 困っていること・治療目的 | 考えられる薬 | ポイント |
|---|---|---|
| やる気がない、無関心、何もしない | ドネペジルなど | アパシーに対して有効なことがある |
| 怒りっぽい、興奮、易刺激性、妄想、異常行動 | メマンチン | 周辺症状を意識して使うことがある |
| 早期アルツハイマー病の進行を抑えたい | レカネマブ | アミロイドβを確認し、点滴で進行抑制を目指す |
| 介護負担が大きいBPSD | 薬だけでなく環境調整・ケアも重要 | 身体不調、薬の副作用、生活環境の確認が必要 |
まとめ:認知症薬は「症状」と「目的」に合わせて選ぶ
認知症の薬は、単に「物忘れの薬」として一括りにするよりも、次のように考えるとわかりやすくなります。
ドネペジルなどは、認知機能の低下だけでなく、アパシーや意欲低下が目立つ方で検討されることがあります。
メマンチンは、中等度以降のアルツハイマー型認知症で、興奮、易怒性、妄想、異常行動などの周辺症状を意識して使うことがあります。
レカネマブは、今ある周辺症状を落ち着かせる薬ではなく、早期アルツハイマー病の進行抑制を目的とした薬です。
どの薬も、すべての人に同じように効くわけではありません。
大切なのは、薬を始める前に「この薬で何を改善したいのか」を明確にし、開始後も本人の生活、家族の介護負担、副作用を見ながら評価していくことです。
薬について不安がある場合や、飲み始めてから様子が変わった場合は、自己判断で中止せず、主治医や薬剤師に相談しましょう。
本記事は、認知症治療薬に関する一般的な情報提供を目的としています。実際の薬の選択は、認知症の種類、重症度、症状、合併症、服薬状況、生活環境によって異なります。薬の開始・変更・中止は自己判断せず、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
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監修者情報
東京医科歯科大学医学部医学科卒業(現・東京科学大学)
地方中核病院やメンタルクリニック・訪問診療クリニックなどで勤務
てらすクリニックひきふね 院長
(内科・心療内科・精神科・訪問診療)