「やる気が出ない」「ずっとだるい」――それ、貧血が関係しているかもしれません

最近、疲れやすい」
「寝てもだるさが取れない」
「集中できない」
「何もする気が起きない」
「気分まで落ち込んできた」
このような症状が続くと、「ストレスのせいかな」「うつ病かもしれない」「自分の気持ちが弱いのでは」と考えてしまう方も少なくありません。もちろん、抑うつ気分や意欲低下が続く場合には、こころの病気の評価は大切です。
一方で、見落としてはいけない原因の一つが貧血、特に鉄欠乏性貧血です。貧血は、めまいや立ちくらみだけの病気と思われがちですが、実際には倦怠感、頭痛、気力の低下、仕事や学業の効率低下など、日常生活に大きく影響する不調を引き起こします。厚生労働省の女性の健康情報サイトでも、貧血は倦怠感、頭痛、気力の低下などの原因となり、仕事の効率低下や「怠けている」と思われる影響にも触れられています。
貧血でなぜ「だるい」「やる気が出ない」が起こるのか
鉄欠乏性貧血では、体の中の鉄が不足し、赤血球に含まれるヘモグロビンが十分につくられにくくなります。ヘモグロビンは、全身に酸素を運ぶ役割を担っています。鉄不足によってヘモグロビンが減ると、体はいわば「酸素を運ぶ力が落ちた状態」になり、疲れやすさ、息切れ、動悸、頭痛、めまいなどが起こりやすくなります。
この倦怠感は、単なる「疲れ」とは違います。十分に休んでも回復しにくい、階段や通勤・通学だけでしんどい、以前ならできていた家事や仕事が負担に感じる、という形で現れることがあります。
その結果、「またできなかった」「周りに迷惑をかけている」「自分は怠けているのでは」と考えるようになり、気分の落ち込みにつながることがあります。つまり、貧血による身体の不調が長引くことで、心理的にも追い込まれてしまうことがあるのです。
貧血とうつ病は同じではない。でも、似て見えることがある
貧血とうつ病は同じ病気ではありません。うつ病では、悲しく憂うつな気分が一日中続く、これまで好きだったことを楽しめない、眠れないまたは寝すぎる、食欲の変化、疲れやすさ、集中力低下、自分を責める気持ちなどが2週間以上続くことがあります。厚生労働省も、こうした症状が続く場合には専門家への相談をすすめています。
ただし、貧血でも「疲れやすい」「何もやる気になれない」「集中できない」「眠い」「頭痛やめまいがある」といった症状が出るため、外から見ると、うつ病や怠けのように見えてしまうことがあります。
また、鉄欠乏性貧血とうつ症状・心理的ストレスとの関連を示す研究もあります。日本人11,876人を対象にした横断研究では、自己申告による鉄欠乏性貧血の既往が、うつ病歴や心理的ストレスの高さと関連していたと報告されています。ただし、この研究は横断研究であり、「貧血が必ずうつ病を起こす」と証明するものではありません。
大切なのは、「気分が落ち込んでいる=必ず精神的な問題」と決めつけないこと、そして反対に、「貧血があるからこころの治療は不要」とも決めつけないことです。身体とこころの両方を丁寧に見ていく必要があります。
「隠れ貧血」でも不調が出ることがある
健康診断で「貧血ではありません」と言われても、鉄不足がまったくないとは限りません。貧血は、まず体内に蓄えられている鉄、つまり貯蔵鉄が減り、その後に血清鉄、最後にヘモグロビンが低下して明らかな貧血になるとされています。
このため、ヘモグロビン値がまだ正常でも、フェリチンという貯蔵鉄の指標が低下していることがあります。いわゆる「隠れ貧血」と呼ばれる状態です。日本鉄バイオサイエンス学会の公開資料では、鉄欠乏性貧血の診断にはヘモグロビンだけでなく、フェリチン、TIBC、TSATなど鉄の動態を確認することが重要とされています。
また、貧血のない鉄欠乏でも疲労に関係する可能性があります。非貧血性鉄欠乏と疲労に関するメタ解析では、鉄補充が疲労を軽減する可能性が示されています。
貧血が疑われる症状
次のような症状が続く場合、貧血や鉄不足が隠れていることがあります。
とくに当院のような心療内科・精神科の外来に来られる方も多いので注意が必要です。
- 疲れやすい、だるい
- 朝から体が重い
- 集中力が続かない
- 頭痛、めまい、立ちくらみ
- 動悸、息切れ
- 顔色が悪いと言われる
- 爪が割れやすい、反り返る
- 氷を無性に食べたくなる
- 月経量が多い
- 妊娠・出産後から不調が続いている
- ダイエットや偏食がある
- 胃腸の不調、血便、黒い便がある
特に月経のある女性、成長期の子ども、妊娠・授乳中、過度なダイエットをしている方、胃腸の病気がある方、出血を伴う病気がある方では、鉄不足に注意が必要です。
鑑別が必要な病気
倦怠感や抑うつ気分があるからといって、原因が貧血だけとは限りません。似た症状を起こす病気は多くあります。
たとえば、うつ病、不安症、睡眠障害、甲状腺機能低下症、慢性疲労、感染症、肝臓・腎臓の病気、糖尿病、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、慢性炎症に伴う貧血、がん、消化管出血などです。慢性疾患に伴う貧血では鉄欠乏性貧血と似た検査所見を示すことがあり、治療方針も異なるため、鑑別が重要とされています。
特に、便が黒い、血便がある、急に息切れが強くなった、胸痛がある、失神する、体重が減っている、月経量が非常に多いといった場合は、早めの受診が必要です。
診断は血液検査で確認する
貧血や鉄不足は、問診だけでは判断できません。診断には血液検査が必要です。
一般的には、ヘモグロビン、ヘマトクリット、赤血球数、MCV・MCHなどの赤血球指標、フェリチン、血清鉄、TIBC、TSATなどを確認します。日本鉄バイオサイエンス学会は、成人ではヘモグロビン値が男性13g/dL未満、女性12g/dL未満で貧血とし、鉄欠乏の評価ではフェリチンが重要であるとしています。
また、貧血が見つかった場合には、「鉄を飲めばよい」で終わりではありません。なぜ鉄が不足しているのかを調べることが大切です。月経過多、食事摂取不足、妊娠・授乳、成長期の需要増加、消化管出血、胃腸からの吸収不良、炎症性腸疾患、ピロリ菌感染など、背景に治療すべき原因があることがあります。消化器疾患では、症状がなくても消化管出血が鉄欠乏性貧血の原因になることがあります。
治療は「鉄を補う」だけでなく、原因を探すことが大切
鉄欠乏性貧血の治療では、経口鉄剤が第一選択として広く使われています。ただし、鉄剤は吐き気、腹痛、便秘、下痢、腹部不快感などの副作用が出ることがあり、自己判断で中断してしまう方もいます。服用方法の調整や薬剤変更で続けやすくなることもあるため、つらい場合は医師に相談しましょう。
鉄剤を飲むと、倦怠感や集中力低下などの自覚症状が、ヘモグロビン値の改善に先立って軽くなることがあります。しかし、症状がよくなったからといってすぐに中止すると、貯蔵鉄が十分に回復せず、再発することがあります。日本鉄バイオサイエンス学会の資料では、鉄剤中止の時期は貧血が治癒し、血清フェリチン値が正常化したときとされています。
経口鉄剤が飲めない、吸収が悪い、出血などによる鉄の喪失が大きい、早期の改善が必要といった場合には、静注鉄剤が検討されることもあります。ただし、静注鉄剤にはアレルギーなどの注意点があるため、医療機関で適切に判断する必要があります。
気分の落ち込みがある場合は、こころの評価も忘れずに
貧血があると、だるさや気力低下から抑うつ気分に見えることがあります。一方で、うつ病や不安症が同時に存在していることもあります。
次のような状態が続く場合は、貧血の検査とあわせて、こころの専門家への相談も検討してください。
- 気分の落ち込みが2週間以上続く
- 好きだったことが楽しめない
- 自分を強く責める
- 眠れない、または寝すぎる
- 食欲が大きく変化した
- 仕事や学校に行けない状態が続く
- 「消えたい」「死にたい」と思う
貧血を治療すればすべて解決するとは限りません。逆に、こころの治療だけで身体の鉄不足が見逃されるのも望ましくありません。倦怠感、意欲低下、抑うつ気分が重なっているときは、身体の検査とこころの評価を両方行うことが重要です。
まとめ
貧血は、単に「めまいがする病気」ではありません。倦怠感、集中力低下、気力の低下、頭痛、動悸、息切れなどを通して、生活の質を大きく下げることがあります。そして、その不調が長く続くことで、「自分は何もできない」「怠けている」と感じ、抑うつ気分につながることもあります。
「やる気がない」「気持ちの問題」と決めつける前に、血液検査で貧血や鉄不足を確認してみることが大切です。
体のだるさには、体の理由があるかもしれません。
こころの不調に見える症状の背景に、貧血が隠れていることもあります。
てらすクリニックにっぽりではだるさ、動悸、倦怠感など心理的なストレスかな思える中にも貧血などからだの問題が隠れているかも問診や採血などの検査を通じて丁寧に確認して参ります。
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監修者情報
東京医科歯科大学医学部医学科卒業(現・東京科学大学)
地方中核病院やメンタルクリニック・訪問診療クリニックなどで勤務
てらすクリニックひきふね 院長
(内科・心療内科・精神科・訪問診療)