心療内科・精神科・内科(一般・睡眠障害)

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【論文紹介】コロナ後のブレインフォグに認知症薬ドネペジル?

2026.6.15

コロナ後遺症について

新型コロナウイルス感染症にかかったあとから、

「頭がぼんやりする」
「集中できない」
「仕事や勉強の効率が落ちた」
「言葉が出にくい」
「物忘れが増えた気がする」
「考えがまとまらない」

といった症状が続くことがあります。

このような状態は、一般にブレインフォグと呼ばれます。直訳すると「脳に霧がかかったような状態」という意味です。

検査では大きな異常がないと言われたり、「疲れているだけでは」と言われたりして、受診をためらってしまう方も少なくありません。

しかし、コロナ後に続く集中力低下、記憶力低下、頭のぼんやり感は、コロナ後遺症の症状として知られています。
「こんなことで受診していいのかな」と思う段階でも、生活や仕事に支障が出ている場合は医療機関で相談して大丈夫です。

診察では、コロナ後遺症として経過をみるだけでなく、貧血、甲状腺の病気、睡眠障害、うつ状態、薬の影響、神経の病気など、似た症状を起こす別の原因がないかを確認することも大切です。

コロナ後のブレインフォグとは?

ブレインフォグは、医学的に一つの検査だけで診断する病名というより、患者さんが感じる「頭の働きにくさ」を表す言葉です。

たとえば、次のような症状として現れます。

症状具体例
集中しづらい本や資料を読んでも頭に入らない
物忘れが増える予定や言われたことを忘れやすい
言葉が出にくい会話中に単語が出てこない
頭がぼんやりするすっきりせず、考えがまとまらない
判断が遅くなる以前より仕事や家事に時間がかかる
疲れやすい少し考えただけでぐったりする

ブレインフォグは、単独で起こることもありますが、倦怠感、睡眠障害、頭痛、気分の落ち込み、不安、自律神経の不調などと一緒にみられることもあります。

そのため、「記憶力だけの問題」と考えるよりも、体力、睡眠、気分、ストレス、仕事や学業の負荷などを含めて総合的に考える必要があります。

実際に、コロナにかかったあとから「うつっぽい」「疲れが取れない」「仕事ができなくなった」「頭が回らない」といった理由で受診される方もいらっしゃいます。

これまでの治療はどうしていたのか

現時点では、コロナ後遺症のブレインフォグに対して、
「この薬を使えば改善する」
と確立された標準治療薬はありません。

そのため、実際の診療では、まず症状を詳しく確認します。

いつから症状があるのか、コロナ感染との時期的な関係はどうか、睡眠は取れているか、気分の落ち込みはないか、仕事や日常生活にどの程度支障があるかなどを確認します。

必要に応じて、血液検査、認知機能の評価、睡眠や気分の評価などを行うこともあります。

治療としては、症状に応じた対応が中心です。

睡眠障害が強い場合は睡眠の治療、頭痛が強い場合は頭痛の治療、不安や抑うつが強い場合は心療内科・精神科的なサポート、倦怠感が強い場合は活動量の調整や休養の取り方を検討します。

また、倦怠感や自律神経症状などに対して、状態をみながら漢方薬などを検討する場合もあります。ただし、これもすべての方に同じように効く治療というより、症状や体質をみながら相談して決めていくものです。

生活面では、次のような工夫も大切です。

工夫内容
メモを使う予定やタスクを紙やスマホに残す
作業を小分けにする長時間まとめて作業しない
休憩を早めに入れる悪化してから休むのではなく、悪化する前に休む
環境を整える音や通知など、気が散るものを減らす
無理に頑張りすぎない体調に合わせて活動量を調整する

ただし、こうした対応はあくまで「症状を悪化させにくくする工夫」や「生活を支える治療」が中心です。
ブレインフォグの原因そのものに直接働きかける治療は、まだ十分に確立されていないのが現状です。

そこで注目されたのが「ドネペジル」という薬です

今回、新しい研究で注目されたのがドネペジルという薬です。

ドネペジルは、普段は主に認知症の治療で使われている薬です。

日本では、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に対して使われます。認知症そのものを完全に治す薬というより、認知症の症状の進行を抑える目的で使用される薬です。

「認知症の薬が、なぜコロナ後のブレインフォグや倦怠感に関係するの?」
と思われる方も多いと思います。

私も最初にこの研究を見たとき、意外な印象を受けました。

ドネペジルは、脳の中のアセチルコリンという神経伝達物質を増やす方向に働きます。アセチルコリンは、記憶、注意、集中、覚醒などに関わる物質です。

認知症の治療で使われているのは、このアセチルコリンの働きを補うことで、認知機能に関わる症状を支える目的があります。

なぜ認知症の薬が、コロナ後の症状に関係するのか

ここから少し研究の話になります。

東京慈恵会医科大学などの研究グループは、コロナ後遺症の一部に、体の中に潜んでいるヒトヘルペスウイルス6、HHV-6の再活性化が関わっている可能性に注目しました。

HHV-6は、多くの人が過去に感染して体内に持っているウイルスです。普段はおとなしくしていますが、強いストレスや感染症などをきっかけに、再び活動することがあります。

研究では、HHV-6が再活性化したときに関係するSITH-1というタンパク質が、脳内のアセチルコリンを低下させる可能性が示されました。

簡単にいうと、次のような流れです。

コロナ感染後の体調変化
HHV-6が再活性化する人がいる
SITH-1というタンパク質が関係する
脳内のアセチルコリンが低下する可能性
倦怠感や抑うつ症状につながる可能性

そして、アセチルコリンが低下しているのであれば、アセチルコリンを増やす方向に働くドネペジルが治療候補になるのではないか、という考え方です。

マウスを使った実験では、SITH-1を発現させたマウスで脳内アセチルコリンが低下し、倦怠感やうつ病に似た行動がみられました。そこにドネペジルを投与すると、倦怠感やうつ病様行動が改善したと報告されています。

さらに、過去に行われたドネペジルの臨床試験を、抗SITH-1抗体が陽性かどうかで分けて解析したところ、抗SITH-1抗体陽性の患者さんでは、疲労や抑うつ症状の改善がみられたと報告されています。

ここが今回の研究の新しい点です。

つまり、
「コロナ後遺症なら誰でもドネペジルが効く」
という話ではありません。

そうではなく、
HHV-6の再活性化、SITH-1、アセチルコリン低下という病態を持つ一部の患者さんでは、認知症薬として使われてきたドネペジルが治療候補になるかもしれない
という研究です。

認知症の薬が、一見関係なさそうに見えるコロナ後遺症の症状に関わるかもしれないという点で、とても新規性のある研究だと思います。

ブレインフォグに効くと考えてよいのか

ここは慎重に理解する必要があります。

今回の研究で主に示されたのは、抗SITH-1抗体陽性のコロナ後遺症患者さんにおける、倦怠感と抑うつ症状への改善可能性です。

一方で、ブレインフォグそのものに対してドネペジルが有効であると直接証明されたわけではありません。

ブレインフォグは、コロナ後遺症でよくみられる重要な症状です。
ただし、今回の研究で中心的に評価されたのは、疲労感や抑うつ気分でした。

とはいえ、ブレインフォグ、倦怠感、睡眠障害、抑うつ症状は、実際の患者さんでは重なって出ることがあります。

また、アセチルコリンは注意や認知機能にも関係するため、今後、ブレインフォグを含めた認知症状に対してドネペジルがどのような影響を持つのか、追加の研究が期待されます。

現時点での正確な言い方は、
「ドネペジルが、コロナ後遺症の一部の患者さんの倦怠感や抑うつ症状を改善する可能性が示された。ブレインフォグへの効果は今後の検討課題である」
というものです。

全員に効く薬ではない可能性があります

もう一つ大切なのは、ドネペジルがコロナ後遺症全体に対して有効と確認されたわけではない、という点です。

以前に行われたランダム化比較試験では、コロナ後遺症の患者さん全体でみると、ドネペジルによる疲労や心理症状への有効性は確認されませんでした。

その後、抗SITH-1抗体が陽性かどうかで患者さんを分けて解析したところ、特定のグループで改善がみられた、というのが今回の研究の重要なポイントです。

つまり、今後は
「どの患者さんに効く可能性があるのか」
を見極めることが大切になります。

そのためには、抗SITH-1抗体を測定する検査の実用化や、あらかじめ患者さんを分けたうえで行う追加の臨床試験が必要です。

まだ保険診療ですぐ使える治療ではありません

ここは非常に大切です。

今回の研究は興味深いものですが、現時点で
「コロナ後のブレインフォグにドネペジルを保険診療で処方できる標準治療になった」
という意味ではありません。

ドネペジルの現在の主な適応は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に対する認知症症状の進行抑制です。

コロナ後遺症、ブレインフォグ、倦怠感、抑うつ症状は、現時点ではドネペジルの保険適用に含まれていません。

また、今回の研究でも、今後は新型コロナ後遺症への適応拡大や、抗SITH-1抗体を指標にした診断法の開発を目指す段階とされています。

つまり現時点では、
「研究段階で有望な可能性が示された」
という受け止め方が適切です。

すぐに日常診療で誰にでも使える治療ではありません。自己判断でドネペジルを服用することも避ける必要があります。

ただ、コロナ後遺症の治療はまだ十分に確立されていない部分が多いため、このように病態に基づいた新しい治療候補が出てきたことは、とても興味深い進展だと思います。

物忘れやブレインフォグで受診してよいのか

コロナ後に頭がぼんやりする、集中できない、物忘れが増えたように感じる場合、必ずしも認知症とは限りません。

一方で、症状だけで
「コロナ後遺症だから仕方ない」
「年齢のせいだから様子をみよう」
と決めつけるのもよくありません。

認知症、軽度認知障害、睡眠障害、うつ状態、内科的な病気、薬の影響など、確認すべき原因はいくつもあります。

特に、次のような場合は一度ご相談ください。

受診を考えたい症状具体例
物忘れが増えた予定や会話の内容を忘れる
集中できない仕事や家事に支障が出ている
言葉が出にくい会話中に単語が出てこない
頭がぼんやりする以前のように考えがまとまらない
家族から指摘された「最近忘れっぽい」と言われる
気分の落ち込みがある不安、意欲低下、不眠がある
コロナ後から不調が続く以前の生活に戻れない

「こんなことで受診していいのかな」と思う段階でも、相談して大丈夫です。

てらすクリニックにっぽりでご相談いただけます

コロナ後から続くブレインフォグのような症状、物忘れ、集中力低下、気分の落ち込みなどでお困りの方は、荒川区の日暮里駅近くにあるてらすクリニックにっぽりへご相談ください。

当院では、心療内科・精神科として、うつ状態や不安、睡眠障害などの評価を行いながら、必要に応じて物忘れや認知症に関するご相談も行っています。

また、認知症が心配な方、物忘れが増えてきた方、アルツハイマー病の新しい治療薬であるレカネマブの対象になる可能性について相談したい方もご相談いただけます。

ただし、レカネマブはすべての物忘れに使える薬ではありません。対象となる病状や検査条件があり、慎重な判断が必要です。まずは、物忘れの原因が認知症なのか、軽度認知障害なのか、睡眠や気分の影響なのか、コロナ後のブレインフォグなのかを整理することが大切です。

認知症と診断された場合には、症状や診断に応じて、ドネペジルなどの既存の認知症治療薬を検討することもあります。

一方で、今回ご紹介したようなコロナ後遺症に対するドネペジル治療は、現時点では研究段階であり、保険診療でただちに行える標準治療ではありません。その点は誤解のないよう、診察の中で丁寧にご説明します。

土日・平日夜も通院しやすいクリニックです

てらすクリニックにっぽりは、土日や平日夜も診療しています。

ご本人だけでなく、ご家族が付き添って受診される場合も、お仕事のお休みの日や平日のお仕事帰りに通院しやすい体制です。

JR日暮里駅から徒歩1分の場所にあり、WEB予約は24時間受付可能です。

沿線主要駅から日暮里駅までのアクセス目安

当院は日暮里駅から徒歩1分の場所にあります。
JR常磐線・山手線・京浜東北線、京成線、日暮里・舎人ライナーをご利用の方にも通いやすい立地です。

また、西日暮里駅からも徒歩圏内のため、西日暮里周辺にお住まいの方や、東京メトロ千代田線をご利用の方にもご来院いただきやすい場所にあります。

日暮里駅までの目安
西日暮里駅約2分、徒歩でも約10分前後
北千住駅約6〜8分
松戸駅約16分
柏駅約25〜32分
南千住駅約5分
青砥駅約9〜14分
京成高砂駅約12〜17分

通勤・通学の前後や、お仕事帰りにも立ち寄りやすく、継続的な通院にも便利です。

※所要時間は目安です。時間帯・列車種別・運行状況により異なる場合があります。

まとめ

コロナ後に「頭がぼんやりする」「集中できない」「物忘れが増えた」「仕事や学業に支障がある」といった症状が続く場合、ブレインフォグの可能性があります。

ブレインフォグは、気のせいや怠けではありません。
一方で、認知症、うつ状態、睡眠障害、内科的な病気など、似た症状を起こす別の原因が隠れていることもあります。

今回の研究では、コロナ後遺症の一部に、HHV-6の再活性化、SITH-1、脳内アセチルコリン低下が関わる可能性が示されました。そして、普段は認知症治療に使われているドネペジルが、抗SITH-1抗体陽性の患者さんの倦怠感や抑うつ症状を改善する可能性が報告されました。

認知症薬が、一見関係のなさそうなコロナ後遺症の症状に関わるかもしれないという点は、とても新しい視点です。

ただし、ブレインフォグそのものへの効果が確立したわけではなく、保険診療ですぐに使える標準治療でもありません。今後、どのような患者さんに効果が期待できるのか、抗SITH-1抗体を測定する診断法が実用化されるのかなど、さらなる研究が待たれます。

コロナ後から続く物忘れ、集中力低下、頭のぼんやり感でお困りの方、認知症や軽度認知障害が心配な方は、我慢しすぎず一度ご相談ください。

参考文献

Oka N, Nakamura K, Hirahata K, Ishii A, Yamakawa K, Ie K, Goto T, Shimada K, Fujitani S, Kondo K. Donepezil ameliorates fatigue and depression in PASC patients with HHV-6B SITH-1-induced acetylcholine deficiency. Frontiers in Pharmacology. 2026;17:1807203. doi:10.3389/fphar.2026.1807203.

監修者情報

船橋 健吾
医師 船橋 健吾

東京医科歯科大学医学部医学科卒業(現・東京科学大学)
地方中核病院やメンタルクリニック・訪問診療クリニックなどで勤務
てらすクリニックひきふね 院長
(内科・心療内科・精神科・訪問診療)

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