
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、自然災害、事故、暴力行為など、生命の危険を感じるような強烈な体験や、他者の死傷を目の当たりにするといった、日常では経験しない衝撃的な出来事(トラウマ)の後に生じる精神的な症状です。
多くの場合、トラウマ体験から数週間から半年程度の間に症状が現れます。大規模災害では、被災者の約10%がPTSDを発症するとの報告があります。また、男性よりも女性の方が発症率が2倍高いことが知られています。
PTSDの症状は、大きく3つのカテゴリーに分類されます。
トラウマ体験が意図せず繰り返し思い起こされる症状です。
トラウマを思い出させるものを避けたり、感情が薄れたりする症状です。
常に緊張した状態が続き、些細なことにも過敏に反応する症状です。
これらの症状は、時間の経過とともに自然に改善する方もいますが、長期間にわたって持続し、日常生活や社会生活に深刻な影響を及ぼし続けるケースもあります。
PTSDの引き金となるトラウマ体験には、以下のようなものがあります。
こうした出来事により、強い恐怖や衝撃を受けることで、ストレスに関連するホルモンが過剰に分泌されることが、発症の一因と考えられています。
また、脳の特定の領域の構造や機能との関連性も研究されています。
治療にあたっては、まず患者さんの気持ちに寄り添い、安心できる環境を整えることが大切です。トラウマ体験について話せるよう支援しますが、無理に話すことを強いることはありません。患者さんご自身のペースを尊重しながら進めていくことが重要です。トラウマ体験から十分な時間が経過しないと話す準備ができない方もおり、その気持ちは尊重されるべきものです。
PTSDの治療は、主に薬物療法と精神療法を組み合わせて行われます。
セロトニンという脳内の神経伝達物質に作用する抗うつ薬(SSRI)が治療の中心となります。その他、症状に応じて別の種類の抗うつ薬や気分安定薬が用いられることもあります。必要に応じて、抗不安薬を一時的に使用する場合もあります。
いくつかの精神療法が有効とされています。
PTSDという病気について理解を深めていただき、時間とともに回復する可能性があることをお伝えすることで、不安の軽減を図ります。
様々なアプローチがあります。避けていた対象に段階的に向き合う練習をする方法や、トラウマ体験を安全な環境で思い出し語っていただくことを繰り返す曝露療法、トラウマによって生じた否定的な考え方を、より現実的で建設的な考え方に修正していく認知再構成などがあります。
トラウマ体験を思い浮かべながら、治療者の指の動きに合わせて目を動かすことで、トラウマ記憶の処理を促す方法です。有効性が報告されています。
治療方法は、患者さんの症状や状況に応じて選択していきます。
PTSDは、うつ病や依存症といった他の疾患を併発しやすいことも知られており、早期の対応が望ましいとされています。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、適切な治療により症状の改善が期待できます。症状に思い当たることがある場合は、ひとりで抱え込まず、お気軽にご相談ください。